『ゴロウじいちゃんの話:あのときの夏』……8

『ゴロウじいちゃんの話:あのときの夏』……8  

近澤可也 作

<ゴロウの話Ⅶ:……天皇のおなら事件2>

K市立H町国民学校・職員室

ガランとした職員室。壁際で正座しているゴロウ。その前に校長と担任教師が立って、ゴロウを叱っている。

注:正座(せいざ): 罰の為教員室の板張り床の上で正座させられる。足がしびれるけど姿勢を崩すことは許されない。

ゴロウのナレーション「職員室で正座させられた。校長もきて謝れと言う。ボク、それでも謝らなかった」

教頭「だれがいい始めたのか、正直にいいなさい」

ゴロウ「………………」

校長「強情な奴だ。謝るどころか、口もきかん」

ゴロウ (天皇かて、クソもすれば、ヘもする。ボクらとどこも変わっとらん。ナンも、悪いことしとらんさかい、謝ることないがやて)

ゴロウは、勿論、こんなことは思ったとしても口にして言えない。ただ歯をくいしばり、黙りつづけた。

このとき、教頭が校長に耳打ちする。

教頭「校長これはまずいですよ。これが外部にもれたらおおごとですよ。もし軍部にとどいたら、わたしらの監督責任ということになり懲戒処分になるかもしれません。これはなかったことにしときましょう。」
ゴロウのナレーション「これにて一件落着(いっけんらくちゃく)! 無罪放免(むざいほうめん)にいたす」

*   *   *   *   *

ゴロウの(回想)学校の帰り道 (夕)

ゴロウの母さんが呼ばれて、ゴロウをもらい下げに来てくれた。夕日に染まった街をゴロウと母さんが、並んで歩いてくる。

ゴロウのナレーション「母さんも校長や教頭から注意をうけしぼられたはずだが、僕を叱らなかった。僕には何も言わなかった。一緒に出てきた副級長の山田くんは、迎えに来た山田くんのお母さんからこっぴどく叱られていた。『近澤さんは泣きもしないし、謝りもしなくて立派です。それにひきかえおまえはなんですか。なさけない‼︎』‥‥先生には叱られるし、お母さんからも叱られるし、山田くんの散々な一日、見ていて気の毒になった」

*   *   *   *   *

ジュン「おじいちゃん、最後まであやまらなかったんだね。最後まで友達をかばったんったんだね。えらい!」

ゴロウ「偉いというほどのものじゃない。ただ歯を食いしばって、にぎりこぶしを固く握ってがまんをしていた。理由もなく、何かに耐えていたんだと思う。いまからかんがえると、ただ、何かに反抗していたのかもしれない。
「……母さんはかえり道、アメをたもとからだしそっとくれた。夕日の中を二人であめを舐めながら歩いた。甘かった。母さんは、いつでも優しかった……」
いつしか、ゴロウの眼に涙がうかんだ。ジュンは、こわいと思っていたゴロウじいちゃんが自分と同じくお母さんに甘えている姿を想像して、微笑ましく思いすっかりゴロウじいちゃんを好きになってしまった。

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