『ゴロウじいちゃんの話:あのときの夏』……5近澤可也 作
<ゴロウの話Ⅳ:……運動場をイモ畑>
ゴロウは話し途中で……、遠く虚空を見やり呆然としている。
ジュン:「どうしたの? おじいちゃん。だいじょうぶ?」
ジュンは、心配になりゴロウのからだをゆさぶった。
「いやあ、なんでもない。ちょっとその……のどが渇いてな」
ごろうはたちあがり、台所から水を汲んできてのどをうるおす。ジュンはナップザックからノートを取り出し、ゴロウの話を書きとめる用意をした。
ゴロウは話を始めた。
「あの頃はほんとに何もなかった。何もない。しかたがないから、でも工夫してなんでも、自分の手でつくった」
――開墾(かいこん)と称して、あまった土地を見つけ新しい畑をつくった。
さいごには運動場をほり起こし、イモ畑にしたもんだ。これはしんどい作業だった。運動場にはガラといって石炭のくずのようなものが敷き詰めてある。これが固くて手に負えない。鍬が地面に刺さらない。そこで鍬より先がとがっていて重たいトグワというものをつかった。腹がペコペコにへってフラフラしている子供がやるのだから、いっこうにはかどらない。そういえば、学校の階段をあがるのが……一段ごとつらかった。たぶん栄養失調で脚気にかかっていたのかもしれん。
夏休みには、イモ畑に肥料をあげに順番で学校へ行った。肥料はなんだと思う? 人糞だよ。便所の小便やクソを水で薄めて、肥桶にいれて、二人で担いで畑に撒くのだ。ホントの話、臭くて臭くてお笑いものだ――。