『ゴロウじいちゃんの話:あのときの夏』……7近澤可也 作
<ゴロウの話Ⅵ:……天皇のおなら事件1>
「ここでおじいちゃんのとっておきの話をしましょう。【天皇のおなら事件】という今なら笑い話なのだが、当時では考えられない大変な事件が起こったんだよ」
ゴロウは、遠い昔を思い浮かべ、その世界にはいりこんでいった。
* * * * *
K市立H町国民学校の教室
授業の前で、生徒たちはてんでバラバラに騒いでいる。
後ろの方で悪がきニョンペが、校長の口調を真似ておごそかな口調で話だす。
ニョンペ「《朕おもわず屁をこいて、なんじ臣民くさかろ 御名御璽 !》」
恭一「ほんなこと、大きな声で言うなや。人に聞かれたらダイバラになるぞ」
みんなが静かになり、ふりかえると、ニョンペがにやりと笑う。
ニョンペ「ほやかて、天皇も、クソをするしヘもこく」
生徒1「ほんまかい、天皇がクソするて?」
生徒2「おマン、見たことあるがかいな。見たことないもんが、見たようなこと言うな」
生徒1「だいたい天皇の顔見たら眼がたつぶれるちゅうて、黙とうさせられとるがに」
《朕おもわず屁をこいて、なんじ臣民くさかろう……プウー!》
恭一が真似て言った。みんなが大笑いする。続いてカズが踊りながら囃し立て、《朕おもわず屁をこいて……》と大仰なしぐさで尻をつきだす。
囃子言葉は伝染する。そしてクラス全員が合唱しだした。
担任の教師がいつのまにか教室の入り口に立っていて、一部始終を見ている……。だれも先生が入ってきたことに気がつかなかった。
ゴロウのナレーション 「先生はびっくりした。言ってはならないこと、あってはならないことが目のまえにおこっている」
先生「誰だ、こんなことを教えたやつは? 手を上げろ! 前に出ろ!」
教室の全員が静まり返る。言い出しっぺニョンペをはじめ、誰も前には出てこない。
先生「級長天河ゴロウ、副級長山田恭一! 代表責任者として職員室にこい!」
* * * * *
ジュンがゴロウの話をさえぎって……
ジュン「かっこういい、おじいちゃん、級長をやっていたんだね。級長ってクラスの代表なんでしょう。きっと、通知表の成績も良かったんだね」
ゴロウ「勉強なんか全然しなかった。だいいち学校では満足な授業はなかった」
ジュン「代表責任者とは、なんなの一体?」
ゴロウ「代表責任とは、クラス全員が悪いことをした時に、級長、組長が代表して罰を受けるこという。また、この場合のように、犯人が名乗り上げななかった時なども、代表責任がとらされた。そのほかに、連体責任というのがある。連体責任とは、悪いのが一人でもいるとクラス全員が殴られた」