『ゴロウじいちゃんの話:あのときの夏』……3

『ゴロウじいちゃんの話:あのときの夏』……3近澤可也 作
<ゴロウの話Ⅱ……先生が生徒を殴る?>

「平和のために戦争をするというのは、なんかおかしい気がする」

「アジアの植民地を解放するという大義名分を掲げて、アメリカをはじめ連合国を相手に戦争をはじめた。今から考えるとずいぶん無茶なことをしたもんだと思うが、あのときは勝てるつもりでいた。いや、そのように洗脳されていたのかも知れんが…… みんな本気で考えていたんだよ」
「反対する人たちはいなかったの」

「反対する人たちもいたにはいたが、どうすることもできなかった。特高(とくこう)といって、こわいこわい特別な警察機構があって、反対の人たちを有無を言わさずしょっぴいて,拷問(ごうもん)をくわえていた」

「こわい!。ひどい時代があったもんだ。おじいちゃんたちも、ごうもんにあった?」

「さすがに拷問はなかったよ。でも教師は殴るのはあたり前。勿論先生によってはずいぶん違った。やさしい先生もいるにはいたが」

「先生が生徒を殴る? そんなこと、今だったら大問題だ。まちがいなくくびになる」

「ことに教練(きょうれん)の教官は殴るのはあたりまえ。よたよたすると竹刀(しない)でしごく。あの頃は栄養失調で皆ガリガリ。整列といわれてもよろつくやつがいる。にらまれてなぐられるのは、だいたいいつもきまっていた」

「へえ、そんな時代だったんだ……」
「教師が言うんだ。『しっかり立て。歯をくいしばれ』で、バッチとくる。殴るののうまい先生は、ピッシと音がいいが、意外に痛くはない。下手にたたかれると、これがかえって痛くてよくきく。耳をうたれたりしたら鼓膜が破れるしな」

「こまくが破れたら聞こえなくなっちゃう」

「左右の頬をなぐる往復ビンタというものもあるし、二人を立たせ、左右から双方の頭を鉢合わせさせるガチンコ。これは強烈に頭の芯まで痛く、一番きいた」

ジュンは思わず身をすくめる。

「ブルル……からだがぞくぞくしちゃう」

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